想いは寄せては引いていく波のように。
特別お題 : 「青春の一冊」
わたしの大好きな本について、紹介も兼ねて語りたいと思います。
初めて読んだのは、手元に残っている記録によればもう10年以上も前、中学1年生のときのこと。その後、年を重ねながら何度も何度も読み返しています。
- 作者: 江國香織
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/06/28
- メディア: 文庫
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タイトルは「神様のボート」
Amazonからあらすじを引用させて頂きます。
昔、ママは、骨ごと溶けるような恋をし、その結果あたしが生まれた。“私の宝物は三つ。ピアノ。あのひと。そしてあなたよ草子”。必ず戻るといって消えたパパを待ってママとあたしは引越しを繰り返す。“私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの”“神様のボートにのってしまったから”―恋愛の静かな狂気に囚われた母葉子と、その傍らで成長していく娘草子の遙かな旅の物語。
江國香織さんの1999年の作品です。
わたしは文庫化されてからこの作品に出会いました。
これまで管理の悪さから何回も同本を紛失しているのですが、その度に新しく買い直しています。ちなみにいま5回目を迎えようとしています…。(記事を書くにあたって探したけど見つからない…)
それでも、尚も手元においておきたいと思う、本当に形容しがたい愛をこの作品に対して抱いています。
初めて読み終えたときの、あの寂しくて切なくてでも愛しくてなんともいえない感情は、まだ別の作品では感じたことがありません。
中学1年生なんて大した恋愛もしたことないのに、なんでこんなに切ないのか、同時になんでこんなにも憧れてしまうのか、わたしが江國ワールドに引き込まれたきっかけの作品でした。
母親である葉子とその娘の草子、この親子は旅烏です。
もうこの設定だけでわたしはくすぐられるのです。
2人の母娘は、1~2年ごとに街から街へ転々と引っ越していて、同じ地には留まりません。
いつか”あの人”に会うために。
葉子は、草子にパパ(あの人)について、たくさんのことを語ります。骨ごと溶けるような恋のことを、草子の背骨がパパとそっくりなことを。
作中で最初に読んだときから、とても印象に残っているフレーズがあります。手元にいま本がないので引用ができないのですが、葉子は「彼の肩の窪みに、自分の頬がぴったり当てはまるのは運命だ」と言います。このセリフは、言葉そのものは忘れてしまっても、インパクトだけはどうしても忘れられません。最初に読んだとき、衝撃でした。
「ああ、運命の人って、そういうことなのかな。」とさえ。
おかげでわたしもピッタリとはいかなくても、人の肩のくぼみに頬を当てるのがすきになりました。思春期に読んだこの作品の影響を確実に受けていると思うと、中学生時代の自分を思い出しながらくすりと笑ってしまいます。
読む人によっては、単調でつまらないふわふわしていてよくわからない、という人も多いみたいです。この本は一気に読み進める作品よりもゆっくりじっくり、頭に馴染ませるように読む作品だと思います。
骨ごと溶けるような恋なんて、人生に一度あるかないか。こんなにもひとりの人を愛して信じて神様のボートに乗った葉子は、草子と共に彷徨い、ゆらゆらと波に揺られています。
振り向いたら、こんなところまできていた、そんな作品です。
忘れた頃に読み返すたび、年齢を重ねて読むたびに、自分の変化にも気づきます。
20代も半ばになり、またそろそろ神様のボートを読み返す時期かもしれません。
こんなにも長きに渡って愛読している「神様のボート」は、間違いなく、わたしの青春の一冊です。
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